五郎、上ばっかり見てちゃいけないよ。登れば登るほど、つまづいたときの怪我が大きいもんだからね。
黒川きぬ
今よりもっと良い暮らしがしたい。欲しいもの手に入れたい。理想の人生を実現したい。
成功を目指して上へ上へと目指していく。そういうときだからこそ、肝に命じたい言葉がこれだ。
人生、山高ければ谷深し。
大きな成功を目指せば目指すほど、同時にそこには深い谷がある。一歩でも間違えれば、落ちたときのダメージは計り知れない。
これはただの例えでも何でもない。欲しいものが大きければ大きいほど。今より「もっと」の度合いが大きければ大きいほど。
成功したときの喜びは計り知れないが、その後、失敗したときのダメージもまた、限りなく大きい。
だからこそ、賢明な先人はこう説いた。ほどほどの成功が一番良いのだ、と。
いずれにせよ大切なのは、常に自分の足元を見つめ続けることだ。
上昇志向に後押しされて今より「もっと」の人生を目指すとき。成功に背中を押されて前進せんとしているとき。
自分の足元をじっくり見つめ、一歩一歩着実に、前へ進んでいく。そのとき、先へ進めば進むほど、足を滑らして転落する危険も増えていく。
だからこそ、足を踏み外さないために、足元から目をそらしてはいけない。つまづかないために。何より、自分を見失わないために。
出典
『白い巨塔』(ドラマ版、2003年)