人の心を解き明かそうとする学問、心理学。
心理学というと、「心」という数値化できない、漠然としたテーマを扱う学問のため、信頼性への批判がつきものだ。
確かに、心理学の考え方をそのまま受け入れることは難しいが、心理学の発想、視点を取り入れることは、視野を広げる上で、とても役に立つ。
そのなかでも特に参考になるのは、発達心理学という分野だ。個人的に、この分野は、学問の対象ではなく、自己探求の上で、きわめて実用的なものだと考えている。
人の一生は変化と学びの連続
発達心理学とは、乳幼児期から老年期までの人間の発達と過程を研究する心理学のこと。
発達心理学のなかでも重要な概念は、「発達課題」という概念だ。これは、「人が健全に成長していくうえで、各発達段階で達成しておく必要のある課題がある」という考え方。
例えば、赤ちゃんの時期であれば、養育者との信頼性を獲得すること、青年の年代であれば、自分のアイデンティティを獲得することなど、我々の成長段階に応じて達成すべきことがある、という考え方だ。
我々は、赤ん坊から生まれ、成長して青年となり、おじさんとなり、おじいさんとなり、死んでいく。
人は生涯を通して変化・成長を続けるものであり、人は人生のそれぞれの段階で、経験する課題がある。それは人生の段階ごとに必要な課題であって、それを克服していくことが大切だ、というのが、発達心理学の考え方だ。
人生の段階には必要な課題があり、それを達成することで、人生は変わる。この考え方は、人生を生きていく上で、とても大切な視点だと思う。
学びが必要な時期がある
人生を振り返ってみると、子どものときは子どものときの問題が、大人になれば大人の問題がある。そして、これらの問題は、不快感と同時に、学びを与えてくれる。
不幸な出会いや嫌な思い出。それらを「ネガティブな経験」として終わらせることなく、その問題が、自分の「今」の人生において、どのような意味を持つのかを考えてみること。
日々起こること、日常で経験することを、「この問題は、今の自分にとって、何を意味するのか?」というように、人生の肥やしにすることができる。
この視点がなければ、日々の不愉快な経験は、ただ理不尽で無意味な経験だ。
しかし、我々は成長とともにいろんな問題・課題を経験し、それを克服していくことで、人間として成長していくことができる。
経験すること、直面する課題は年齢ごとに違うが、何か問題があるたび、悩むたび、ライフサイクルという考え方を思い出してみると、自分の人生を俯瞰して眺めることができる。
それができれば、今直面する悩みや苦しみにも、思わぬ意味や意義を発見することができる。これこそが、智恵の力だ。
人生を俯瞰し、「課題」という視点で眺めてみる。きっと、新しい発見があることだろう。
最後に
人生とは何かを学ぶ旅路である。
何を得たかというよりは、何を学んだかという視点で人生を再考することによって、ムダと思えた出来事が、実はとてつもなく大切な経験であったことに気づく。
では何のために人生は学びの旅なのか?それは最後の最後で分かること。
ここで野暮なことは書かないが、自分の課題と向き合って、それを改善していく人生こそ他ならぬ、自分自身の物語である。
参考書籍
・『乳児・幼児・児童 (発達心理学入門)』(東京大学出版会)
・『青年・成人・老人 (発達心理学入門)』(東京大学出版会)
・『なぜ春はこない?』(実業之日本社)