目標を達成しさえすれば人生はすばらしいという考えは、必ずしも正しくない。やみくもに突き進むだけで、その過程にある日々の小さな喜びを感じられなくなった者は、決して幸福になれないのである。
オリバー・カーン
目標を立て、達成する。志を立て、努力を重ね、そして「理想」を現実にする。
その瞬間、気づく人はすぐに気づく。本当に大切なことは「結果」ではないこと。大切なことは結果へ至る過程である、ということに。過程で経験する様々な事柄にこそ、「生きる」という行為それ自体の、大切な意味があることに。
はじめに
ほしいものを手に入れる。目標を実現する。「私はこんな現実を実現したいんです」という理想的な人生を生きる。それはそれで、人生の素晴らしい瞬間である。
だがそれと同時に、目標を達成し何か実現した瞬間に直面する、人生の儚い現実がある。
それは、どんなものも手に入れた瞬間。どんな目標も達成した瞬間。その喜びは一瞬で褪せる、決して長続きしない一瞬の出来事であるということを、学ぶ。
そして、人生において本当の意味で大切なことは何なのか?その真実に、気づき始める。
常に満たされない何か
「私は○○を手に入れていない」
「私は○○を達成していない」
そのような「未完」の状態であるとき、私たちはそれが達成されたときにこそ、幸せを味わえるという誤解を持っている。すなわち、「○○を手に入れていない私」であり「○○を達成していない私」は不幸であると考える。
だが実際、「○○を手に入れた私」になっても。「○○を達成した私」になっても。現実問題、あなたを取り巻く本質的な状況は、何ら変わっていないことに気づくだろう。
なぜなら幸せな生き方とはすなわち気づく力。今ここにあるものに気づき、感じる力だからである。
それが欠けていれば、何を手に入れようと、何を成そうと、常に「自分の中の欠けている何か」に、日々、心の平和を脅かされ続ける。
結果で人生の「価値」を判断しない
私たちは自分のなかの空虚感を埋めようと、外に何かを求め始める。学歴。お金。異性。社会的名誉。人によってそれは様々だが、何を得ようとも、満足感を持ち続けることはできない。
だから人生は虚しい、という話ではない。それは目標である。結果である。そして、人生の副産物である。
手に入れたなら、それはそれで問題ない。ただし、それを手に入れることが勝利だとか、それがないと不幸だとか、結果で人生の価値を測ってはいけない。
私たちは日々、日常という小さな時間を積み重ね、それぞれの人生を作り上げていく。大切なのは、日常という私たちに与えられた時間を、どのような気持ちで過ごしていくか。この、小さな、小さな事柄である。
最後に
お金がないとき、「お金があれば人生は」と思う。恋人がいないとき、「恋人がいれば人生は」と想像する。仕事がうまくいっていないとき、「仕事がうまくいけば人生は」と悩む。
対象は何でもいいが、一つだけ、確かなことがある。「○○が△△にさえなれば」というのは、幻想である。
目標を持つことはいい。だが、それ以上に大切なのは今このとき。一瞬一瞬にある、「今」という価値の大切さに、気づくことである。それは「今ここ」にある幸せに気づこうとうする心の習慣である。
そしてこれこそが本当の意味で、あなたの人生を豊かに。そして幸せにする、最も大きな力なのである。
出典
『オリバー・カーン自伝』