すべての人間の栄枯浮沈は、定めがたいものである。
この間に処して、悲境に陥っては、楽境にある時の気持を以て、日々を愉快に、楽しく暮らし、楽境に上がっては、かつて悲境にあった時のことを忘れず、欲を制し奢りを戒めて行くことが、人々の心の修養の要諦であろう。
高橋是清
人生の避けがたい法則の一つは、人生で良いことがあればその後、良いことの度合いに応じた悪いことがやって来る、ということだ。
つまり、人生で良いことがたくさんあればあるほど。何もかもが上手くいけばいくほど。その反動で、大きな悪いことがたくさんやって来る。
上に上れば下に落とされ、下に落ちれば上に上がれる、そんな栄枯盛衰を強制体験させられる。これが、人生の避けがたい法則である。この意味で、人生のいわゆる成功者ほど、山あり谷あり。起伏の激しい人生を送っている。
逆に、人生良いことがあまりないけれど、悪いこともあまりない。平凡で退屈だが、人生が狂うような大変なことも起こらない。実は、そういう人生は案外、幸せなのかもしれない。
死ぬほど嬉しいことがないかわりに、死ぬほど辛いこともやって来ない。
退屈で何一つ代わり映えがしない人生だけど、「何も起こらない」ということが一つの朗報。刺激的な人生をあきらめるなら、平凡に徹する方が幸せに生きられるかもしれない。
出典
『随想録』