もし傷つくなら、それは恋ではない

失恋

一方が残酷な暴君で、他方は奴隷のような屈辱に甘んじている。これが恋だというのなら、人生は恋なんかしないほうがマシだ。

ヘッセ(文学者)

男女の恋愛では「惚れた方が負ける」と言うが、確かに素晴らしい格言だ。

人を好きになる、それは自然なことだけど、恋愛は決して平等な世界ではない。好きになった方が、好きな相手から、下僕のような扱いを受けることは珍しくない。

こちらが「好き好き好き」なのに、相手からは「何、こいつ」程度にしか思われていない。そんな悲劇は日常茶飯事だ。

好きになると自分を見失う。相手が世界の全てになる。それを失うことを極端に恐れる。だから、相手の言いなりになってしまう。従属してしまう。

恋に夢中になっているときは、あらゆる言葉を総動員して、自分の愚行を正当化する

一方的な片思いでも、金づる状態になっていても、都合の良い人になっていても、どれほど無様で悲惨な状態でも、相手に好きになって欲しい、手に入れたい一心で愚行を重ねていく。

それはまさに人間関係のパワーゲームであり、好かれている方が上位であり、好いている方が下位なのだ。

そのゲームは刺激的で人間性を磨いてくれるが、いつまでも参加してはいけない。それは自尊心を貶めて、最後には破滅させるだろう。

幸いなことに、このようなパワーゲームが絡まない恋もある。

それは出会ったときからイーブンであり、互いが互いを同じくらい必要としている。それはとてもバランスが取れたもので、なぜか安心できる。

刺激は小さいかもしれないが、何もかもが自然で、安定して落ち着いている。

恋のパワーゲームにハマって苦しむのも人生の一興だが、最後の最後には、やっぱり安心できるところに落ち着きたい。

そこできっと、本当の恋は傷つくもの、苦しむものではないことが分かるから。

出典

『ゲルトルート』(新潮社、1950年)