人は自分の内側に抱えた問題や不満を外へと向ける。その結果

だから何ですか?

コンプレックスを持つ人間は必ず、自分の憧れている鏡を引き合いに出します。

渡辺京二

人は、自分の「内」にあるコンプレックスや不満や問題を、無意識に「外」へ投影する。

言っている言葉が「それは、あなたのことですね?」と当人に返ってくる「ブーメラン現象」はよくよく知られている現象だが、この記事ではそれが起こる理由について、簡潔に説明する。

はじめに

人は「自分が人から言われたら最も傷つく言葉」で人を攻撃する。

人への攻撃的な言動の本質。それは「自分自身のなかにある解消できない問題」を他者へと投影する行為である。すなわち、他者に対して日常的に攻撃的な言葉を使う人は、その人自身が未解消の問題、不満、否定的な感情を抱えていることを意味している。

それが何を意味するか?考え方はシンプルである。あなたが他人から攻撃的・否定的な言葉を投げかけられたとき、実はその言葉はあなたを指してはいない。その言葉は、それを口にした「本人」や「本人が抱えている状況」を示している。

すべての発端はその人が抱えている「悩み」や「劣等感」であり、それらが生み出す自己の不完全性や未解消の不満、問題を外へと投影している。

この原理を理解しておくことは、望む望まないに関わらず他者との摩擦を経験せざるを得ない人の世を生きていくための、大切な知識となるだろう。

それは「あなた」を指す言葉ではない

「私は○○という人間です」

「私は△△という不満を抱えています」

あなたがマウントを取られようと、どんな言葉を投げかけられようと、その言葉の本当の対象は実は「あなた」ではない。その言葉を吐き出している、本人それ自体を指す言葉である。

人から言われる言葉を完全に気にしないことは不可能かもしれない。しかし、なぜその人があなたにそのような言葉を投げかけたのか?その「本質」への理解があれば、状況は変わるだろう。

不満や苛立ち。自分自身で解消できないものと正面から向き合うとするのではなく、他者にぶつけてしまいがちなのはきっと、私たちが「人」という種族が持つ、普遍的な弱さなのだろう。

なぜ弱い犬ほど吠えるのか?

もしかしたらあなたは経験的に、「攻撃的に見える人」ほど実は攻撃されたら弱い人、という真理に気づいているかもしれない。

確か塩野七生さんの言葉だったと思うが、「過激な装いや振る舞いをする人物の本質は小心者である」という趣旨の言葉がある。それはまさに同じ原理であり、「弱い自分」を守るための、心理的な働きである。

本当に力を持つ強い人物ほど他者に対して寛容である。逆に気が小さかったり、力を持たない人物ほど残虐な行いに走る傾向があるのは決して偶然ではない。弱い犬は自分が弱いからこそ吠えなければいけないのである。

最後に

自分に満足している人は他者をはじめ、あらゆる物事に対して鷹揚である。自分に不満を抱えている人は、やたらと自分以外の人や物、環境、あらゆるものに不満を見出す。

あなたがその対象となったとき、その矛先はあなたに向かっているように見える。だが実のところ、その対象は「あなたでなくてもいい」のである。偶然あなたがその対象になっただけ、実際のところ、相手は誰でもいいのである。

なぜなら、不満の根本的な原因それ自体は、人に矛先を向けるその人自身が抱えている課題だからであって、決してあなたではないのである。

あなたは人の課題を解決することはできない。あなたにできることは、あなた自身の課題を解決することである。自分の課題と人の課題を明確に区別し、「自分の人生」に集中することが大切である。

出典

『無名の人生』