銀行会社などの社員や、または官途についている若い人達に向かって、戒めたいことがある。
それが、「決して自分のサラリーと他人のサラリーとを比較するようなことはするな」ということだ。
もし、自分より仕合せな境遇にあるものを見て、それを自分の境遇に比較すれば、不平の起こることは必定だ。
この不平という奴が、その人の生涯を不愉快ならしめ、不幸に陥しいれる原因である。だから決して、自分の地位と他人の地位とを比較するような愚はせぬことだ。
不平を起こすくらいなら、そこに使われて、サラリーを貰うことを已めるがよろしい。サラリーマンを廃業して独立するがいい。
独立してやれば、何事も自分の力量一杯であるから、不平もおこらぬだろう。けれども、独立が出来ないくらいならば、不平は言わないことだ。
心中に不平があれば、どうしても仕事の上に現れる。そうすると、あの男は真面目でない、忠実でないということになって、使っている人から信用されなくなる。
これが、すべての失敗のもとである。
高橋是清
人生において、「こうすれば幸せになれる」という方法は無数にあって、絶対的に正しい方法はない。
しかし逆に、「こうすれば不幸になれる」という方法は決まっている。それは、自分を他人と比較することである。
「あの人と比べて自分の収入はこうである」
「自分の地位はこうである」
このように、自分と他人を比較すれば今すぐかんたんに不幸になれる。
なぜなら、下を見ればキリがないが、上を見ても、必ず自分よりすごい誰かが絶対にいるからである。
特に、会社員など、誰かに雇われて仕事をしているとき、自分と他人を比較することはある意味禁忌と言ってもいい。
特に、お金の話に関しては、なおさら注意を払いたい。
比較すれば必ず不満がくすぶり、仕事に影響が出るからである。こうなってしまってはまずい。だからこそ、どんなときも自分は自分で人は人。その態度を終始一貫することが大切だ。
他人がいくら稼ごうがどうでもいい。他人がどれだけ出世しようが自分には関係ない。自分は自分で、毎日きちんと仕事ができればそれでいい。自分の生活で必要なお金が稼げればそれでいい。
つまりは、そういうことなのである。
出典
『随想録』(中央公庫、2018年)