金貯めて
使う頃には
寝たっきり
湯澤力男
「未来が不安だから、無駄なお金を使わずに貯金する。したいことはお金の余裕ができてから」
そんな堅実な考えを持ち、日々我慢と節約の生活を送る。そしてようやくそれができる状況が整ったとき。既に体力、そして新鮮な感性は衰えており、それを心から楽しむことができない。
この川柳はそんな人生の皮肉を的確に例えている。
はじめに
「何のために生きるのか?」
という問に対して自分なりの答えを持つ。それこそがまさに人生の意義である。
堅実な人生設計を持ち、無駄なお金は使わない。それは確かに重要だが、問題はその堅実思考が度を超えたときである。
未来にすべてを優先した結果、お金の使い時を誤る。そして、この世界にいるからこそ経験できる物事を経験する機会を失う。
そうならないために大切なのは、堅実思考を大切にしつつも、「生きていくためだけに、将来の不安を解消するためだけに、今できることを犠牲にしていないか?自分に対して過剰に制限をかけていないか?」と自問することである。
そして、「実は私、今どうしてもそれを経験してみたいことがあります」と感じることがあるならば。それをするチャンスは、いつも「今」である。
昨日の自分と今日の自分は違う
私たちは年を取る。
この地上に滞在する時間が長くなればなるほど、「去年できたことが今年はできなくなる」という経験が増していく。それは肉的的な部分だけでなく、精神的な部分もそうである。
感性もかわりうる。10代の頃「初めて」経験したことはいつまでも心に残るが、それを繰り返し、日常的に行えるようになったとき、喜びは褪せている。
どれだけ素晴らしい風景も、外国での体験も、体力と感性が衰えたときにそれを見るのと、10代20代でそれを見るのとでは、大きな違いがあるだろう。
だからこそ今できることがあるならば。したいことがあるならば。可能な範囲でそれをすることにOKを出すことが大切である。それは人生という旅路の中で紡がれていく、貴重な思い出になる。
後悔しない人生を送るために
欲は満たしたと思っても永遠に満たされない。だから、今あるお金を欲のためにすべて使うのは間違っている。だがそれと同じくらい、せっかくこの世界に滞在しているにも関わらず、未来のためにすべての今を犠牲にするのも間違っている。
できる範囲で、それができるお金があるのなら。それをする絶好の機会は今しかない。
私たちにできることは、人生やお金という制限を認識しつつ、そこから「可能な限り自分の人生を豊かにするための行動を行う」という選択をすることである。
手にしてみればそれは夢。たとえそうだとしても、欲しいものを手に入れ、したいことを経験する。それはまさしく生きる中で味わえる、豊かさである。それをしっかりと味わうことこそがまさに、後悔しない人生を歩む方法である。
「したいことをずっとしてしなかった」という後悔は、人が死ぬ前に強く感じる後悔の一つである。
最後に
言うまでもないことだが、将来への備えは必要である。
「今が大切だから」といって、借金をして自分の経済力を超えた物を買い漁ったり、クレジットカードを限度額ギリギリまで使い倒すような「浪費の人生」はこの記事で述べんとするテーマではないし、それを推奨しているわけではない。
その一方で、未来のことを考えすぎるあまり、今を犠牲にするのはもったいない。お金を貯めることは大切である。だがその「使い時」を間違えないことは、もっと大切である。
お金とは私たちの生存を維持するために必要なツールであるというだけでなく、私たちがこの世界に滞在するからこそ体験できることを体験する機会を提供してくれる、チケットなのだから。
出典
『シルバー川柳3 来世も一緒になろうと犬に言い』