鳥は卵の中から抜け出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。
ヘルマン・ヘッセ
多くの人は、日常生活という規則正しい日々を送る。
毎朝の通勤電車、見慣れた同僚。そしてルーティーンワーク。永遠に続いていくかのように思える日々だが、ある日突然、そこに思わぬ変化が訪れる。
経済状況の悪化、人間関係の苦しみ。症状は様々だが、当たり前の生活が当たり前ではなくなり、日常の暮らしが、悪夢へと変わる。
「なぜ自分にこのようなことが起こるのか?」
「なぜ自分がこのような目に合わないといけないのか?」
天を仰ぎたくなるような、不愉快で辛い出来事がたいていだ。
人生が理不尽である必然性
このような時期は、何もかもが上手くいかず、人生が理不尽で苦しいもののように思える。
いわゆる不遇の時期、逆境に時期だが、これは人生が変化していく兆候であることが多い。それはいわば、日常生活という殻を破り、新しい世界へと続く変化が逆境だ。
苦しみのなか、もがき、試行錯誤し、様々な変化を経験することで、気がついたら自分が、一皮むけていることに気がつく。
逆境とは新しい自分と出会うための必然
この意味で、逆境とはただ苦しいだけの時期ではない。それは、自分が一皮むけた新しい自分と出会うようなもの。
蝶がサナギから蝶になって羽ばたくには、脱皮が必要なように、人も変化し成長していくには、逆境という苦しみを乗り越える必要がある。
そして、苦しみを味わったら、その先は全く未知の、新しい世界が見えてくる。ここが人生の不思議なところだ。
どうやら、人が成長していくためには、真の自分を見出すためには、「苦しみ」という名の障害が必要なようだ。
「人生に鍛えられる」ということ
もし人生で何ひとつ苦しみがないとすれば。何ひとつ、どん底の逆境がやって来ないなら。
我々はその苦しみに抗うすべを持たず、成長することができないのは容易に想像がつく。つまり、人生に苦しみがある。逆境がある。だから我々をそれを乗り越えていくために、強く、たくましくなっていく。
この意味で、人生で苦しみがあること。逆境があること。それは、より良い自分になるためのテストのようなものだと考えることができる。
だから、より自分になりたいなら。よりよい人生を目指すなら。「卵の中から抜け出よう」と戦い、そして、今までの「世界を破壊しなければならない」のである。
出典
『デミアン』