成功できれば幸せになれる。そう信じているうちは決して

片目を塞ぐ女性

成功と幸福とを、不成功と不幸とを同一視するようになって以来、人間は真の幸福が何であるかを理解し得なくなった。

自分の不幸を不成功として考えている人間こそ、まことに憐れむべきである。

他人の幸福を嫉妬する者は、幸福を成功と同じに見ている場合が多い。

幸福は各人のもの、人格的な、性質的なものであるが、成功は一般的なもの、量的に考えられ得るものである。

だから成功は、その本性上、他人の嫉妬を伴い易い。

三木清

幸せになりたい。

そんなとき私たちが抱きがちな幻想の最たるものの一つが、成功すれば幸せになれる、という幻想である。

成功とはすなわち世の中から認められること。お金持ちになること。異性に持てること。目標を実現すること。

人によって形は様々であるが、誰がどう見ても、結果が分かりやすい。

つまり、成功すれば幸せになった。今より人生がマシになった。そう錯覚するにはもってこいのものである。

ところが。

世の中不思議なことに、成功して幸せになった人の話は頻繁に語られるが、成功して不幸になった人の話は、あまり注目されない。

それは、数が少ないという理由ではなくて、私たちの多くが、成功すれば幸せになれる。人生がよりよくなると信じているからに他ならない。

しかしあいにく、人生成功すればめでたしめでたし。幸せを持ち逃げできるのかといえば、そうは問屋がおろさない。

成功には代償がある。成功だけを持ち逃げすることはできない。

悲惨なことに、成功してますます不幸になってしまった。成功したがゆえに不幸になってしまった。そんな話が世の中にはたくさんある。

この意味で成功と幸せは無関係である。成功したから幸せになった。それは完全に幻想だ。

だからこそどうやったら幸せになることができるのか?自分の頭で考える必要があるのだ。

出典

『人生論ノート』(新潮文庫、1978年)