人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。
カエサル
この世を生きていく上で、自分自身を信頼することはとても大切なことである。
自分の考え方。価値観。やろうとしていること。自分自身を信頼することなくして、理想の人生を送ることはできない。
ただし。なんでもかんでも、自分が正しいと考えるのも宜しくない。なぜなら、人は基本的に「自分が見たいと思う現実しか見ない」という習性があるからだ。
つまり無意識のうちに、私たちは多かれ少なかれ、現実を自分の都合の良いように修正する。そして、自分にとって都合の悪いことは、小さく考えてしまう。これが宜しくない。
だからこそ、たとえ今現実がうまくいっているように見えていたとしても、それがすべて正しいと考えないほうがいい。
そこには必ず、自分が見えていないもの。いや、気づこうとしない何かが常に、そこにある。
この意味で、自分を過信する人間は失敗する。自分を信じることは大切だが、適度な謙虚さも必要である。
自分がしようとしていることは間違っていないか。今のままで本当に大丈夫なのか。
自分の言動を振り返って、「もしかしたら自分は間違っているかもしれない」と考えられるだけの謙虚さは、常に持っていたい。
それこそがまさに本当の意味で、「自分を信頼する」ということなのだから。
出典
『塩野七生『ローマ人の物語』スペシャル・ガイドブック』