人生においては、「勝者」の一方に、必ず、「敗者」があり、「成功」の一方に、必ず、「失敗」があります。
そして、人生においては、その「勝利」や「成功」が、ほんのわずかの偶然で、手許から逃げていってしまうことも、しばしばあります。
田坂広志
世の中では、成功を心を描き、前向きな意欲を持ち続け、行動し続けることによって成功できるというメッセージが語られている。
それを信じて前向きに努力していくことで、実際に成功できることも、確かにある。
この意味で、人生で成功を求める人にとって、このメッセージはまさに心の励まし。価値があるのは間違いない話である。
成功は何一つ約束されていない
しかし。あなたも気づいているとおり、人生、心に成功を描き、前向きに努力しても、成功できないこともある。
むしろ、努力に努力を重ねても、その先に待っているのは、ただただ失望だけ、という、厳しい現実もある。
だからこそ忘れてはいけないことがただ一つ。
私たちは自身の人生で成功を求め、前向きに努力することはできる。それによって成功できる可能性はある。しかし結果は何一つ、約束されていないのである。
ほんの小さな出来事で、すべての努力がムダになる
「努力すれば、必ず成功できる」
もしそうであれば、人生は確実に生きやすくなる。頑張れば頑張っただけ結果を出すことができる。成功することができる。
それならただ、自分がすべき努力をすればいいだけで、頑張れば頑張るほど、より良い人生を実現できる。
ところが、現実は不思議なことに、努力を重ねたにも関わらず、ほんの小さな出来事によって。たった一つのミスによって。
すべての努力が台無しになってしまう。そんな理不尽なことが起こりうる。人生は努力だけは成功できない。その真実から目をそらすことはできないのである。
大切なのは成功できなかった意味
人生で成功を目指すことはできる。ただし成功は約束されていない。
問題なのは、人生全力で努力したにも関わらず、成功することができなかった。そのときに、自分を支えることができるのか、という話である。
成功を目指して努力する。欲しいと思うものを手に入れようとする。この前向きな姿勢は、人として尊いことは間違いない。
だからこそ自分に問いただしたい。
「もし自分が最善を尽くして努力したにも関わらず、すべての努力がムダに終わったとしても、自分を支えるものを持っているか?」
努力してもうまくいかない。成功できずに失敗してしまった。
そのとき、自分を支えることができるものがなければ、生きることに絶望し、何もかもが無意味になってしまう。
ここに、「努力すれば、必ず成功できる。理想の人生を生きることができる」という、自己啓発の罠がある。
最後に
人生で成功は何一つ、約束されていない。
それでもなお、自分が生きていく意味は何なのか?何を大切にして生きていくべきなのか?それを考えることは、成功を手にすること以上に、人生において重要な意味を持つ。
成功できればそれはそれで素晴らしいかもしれない。
しかし、成功できなくても自分の人生に意味があるか?思い通りに成功できなかった自分の人生は無意味なのか?
まずはその答えを、真剣に考えたい。そこにこそ、人生で成功する以上にもっと、大切なことがあるのだから。
出典
『逆境を越える「こころの技法」』